2024年1月2日火曜日

膠着語について

単語と単語の意味的な関係を示すのに3種類 (または4種類) の方法があると言われていて、各言語はこの3種のいずれか、またはその組み合わせで語と語の関係を表現している。

  • 孤立語: 例えば英語のSVO (Subject-Verb-Object) の構文のように、順序が意味を決めるもの。"I love you." では、"love" (「愛する」) に対して、"I" は「愛する人」、"you" は「愛される人」になる。"You love me" だと「愛する人」と「愛される人」が逆になる。なお、英語は次の「屈折語」に分類されることが多いようだ。
  • 屈折語: 英語で"your book" というと、"you" と "book" の関係は「所有者」と「所有物」の関係になる。このように、語形変化によって関係を表すもの。
  • 膠着語: 英語の "I went to New York" では"go" と "New York" が "to" という前置詞でつながっており、"go" に対して、"New York" は行先になる。
この他に抱合語というのがあり、「名詞・副詞・動詞などの文の要素を組み合わせて、1つの語を作ることができる言語のこと」(旅する応用言語学「膠着語・孤立語・屈折語・抱合語について」より) ということだが、単語と単語の意味的な関係を示すのではないようなので、ここでは分類から除外した。

この分類でいえば、日本語は単語と単語の関係を助詞で示すので、膠着語と言われる。動詞に対して動作主が「が」、動作対象が「を」などでつながる。その関係は助詞によってだいたい決まるが、「私はコーヒーが好きだ」では「好き」の対象が「が」でつながるように、動詞や助動詞によって変わってくる。

助詞で関係を表すので、語順は比較的自由になる。「俺は海賊王になる」も「海賊王に俺はなる」も、強調されているところに違いはあるものの、基本的な意味は同じになる。

という訳で、日本語は「膠着語」と言われる訳だが、この「膠着」という名前。「膠 (にかわ)」で「くっつく」という語の成り立ちから、「単語が分かち書きされずつながっている」と解釈されている場合がしばしばみられる。例えば、「技術文書の書き方とまとめ方 7.2.6 単語をさらに細かく分ける考え方」では、「漢字は熟語単位が視覚的に分かりますので、漢字・カナ混じり文は分かち書きをしません。この文字並びを膠着語の書き方と言います」としている。

この前買った「言語処理システムをつくる:実践・自然言語処理シリーズ1」に、「膠着語」について脚注や但し書きもなく、日本語の特徴として「膠着語である」というのがあげられていた。



これ自身では誤解をしているのか分からないが、「膠着語である」という特徴が「語の単位が曖昧である」、「語を空白で区切る習慣がなく、連続して記述される」という特徴と並べて挙げられていること、「語順に関する制限が比較的緩やかである」という特徴と並べて記載されていないことから、「分かち書きでない」という意味にとらえられていることが疑われる。

いや「語を空白で区切る習慣がなく、連続して記述される」ということが別にあげられているということは「分かち書きでない」という意味そのものでとらえられている訳でなく、膠着語の意味は分かって書かれているとは思うのだが、少なくとも膠着語と分かち書きしないということが不可分のものとしてとらえられている可能性がある。

いろいろなところの説明では言及はされていないけれども、もしかすると言語学一般に膠着語と分かち書きしないことは不可分のものという前提が共有されているのかもしれない。調べたところ、韓国語は膠着語であるが分かち書きをするらしい (古閑「朝鮮語−日本語機械翻訳の評価」)。

少なくとも「膠着語」の意味するところを記載しないと、誤解の再生産を生むのではないかと懸念する。

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