2019年8月10日土曜日

熱意を伝える (Bigbeat LIVE その2)

Bigbeat LIVE 2019 午後の2nd Stage のテーマは ”組織は「共感」で変わる"。登壇者それぞれ、組織/コミュニティ、変革に違いがあって、バラエティに富んでいる。

ホストの小沢匠氏はアドビでビジネスモデルを売り切りからサブスクリプションに変えていくために営業全体の意識を変えていかなければならなかった。エンワールドジャパンの片山旭氏は、「カスタマーサクセス」で転職業界の慣習を変えるチャレンジを行った。Freee 田中圭氏は、共感してくれるユーザーのユーザー会をどう立ち上げたかのお話。Abejaのぎょりさん (片淵恭子さん) は、日本一の自社イベントを立ち上げる際にどう周りを巻き込んでいったのか。それぞれ興味深い。

アドビ小沢氏が、売り切り型からサブスクリプション型へのビジネスモデルの変革プロジェクトにチェンジマネジメントリーダーとして関わった話は、日経XTECH の連載 "「チェンジモンスター」をやっつけろ!アドビが自らを変革した100日間" で読むことができる。その連載を全部話すことはできないので、重要なメッセージのみが伝えられた。特に
 「一人では何もできない。共感が人を動かす」と、「チェンジモンスターは、人ではなく、心理的な阻害要因」ということが心に残った。後者に関しては私も「モンスターペアレント」みたいに、厄介者の個人ということを想定していたので、それが誰の心の中にもある阻害要因という見方の変化はなるほどと気づかされるものがある。「阻害要因」ということは、悪意がある人がいるわけではなく、それがなくなれば前進できるということで、問題は対処可能に見えてくる。一方、「誰でも」というところは、その阻害要因は人それぞれであって、一つの解決策でうまくいくものでもないことがわかる。

エンワールドジャパン 片山氏が「人材紹介業の慣習を変える」といっている「慣習」は、人材紹介のビジネスモデルに基づくものである。転職の成功でその人の年収に応じた紹介料を貰う。転職自体がゴールになっているので、それまでケアは厚いが、その後は関係が切れてしまう。しかし、転職者にとってのゴールは「その転職で幸せになる」おとであり、それを「カスタマーサクセス」で定義し、転職後もフォローするように変えた。

片山氏が行った人脈作りが面白い。鬱陶しいくらい熱い。社内ネットワークづくりのためにランチのお誘いをする。毎月15回をKPIとして設定した。セルフブランディングとして毎日のルーチンを設定し、「あの人は何をやっているんだろう」と思わせる。イベントには積極参加し、「イベントの人 = 片山」という評判を得る。アウトプットを続ける。目を付けた人を「勝手にメンター」にしてしまう ... これらがカスタマーチーム立ち上げの基盤になっているとおもわれる。熱さが共感を生むのだろう。

Freee田中圭氏は、ユーザー会を「自走コミュニティ」と呼んでいる。Freee側が手をかけなくとも、ユーザー自ら勉強会「マジカチ」(= マジで価値ある勉強会) を行い、お互いに教えあう。これは会計業界のフェスみたいなものに成長している。Freee側担当者のリソースに依存せずスケールするし、ユーザー視点の良質なコンテンツを量産できる (ハッシュタグ#freee塾 で検索することができる)。
https://six.abejainc.com/
このようなコミュニティを作るために「共感」を生み出すことが重要になる。ユーザー会だけでなく社内でも共感を得る必要があるということだ。そのためには、楽しそうに仕事をすること、それを社内で見てもらうこと、ユーザー会のリーダーに社内向け講演を行ってもらうなど行った。社外向けでは、まずリーダー候補者を探し、選ぶことが重要になる。ビジョンと目標を共有できる人でないといけない。リーダー向けには特別なノベルティを用意し、全国リーダー会などでモチベーションをあげる。

コミュニティマネージャーの仕事は、「熱量をもってビジョンを伝える」ということが印象的だった。

Abejaのぎょりさんは、Abeja SIX という大規模自社イベントのリーダー。それまで名前も知らなかった会社がこんなに派手なイベントをやるんだと感心していたが、それがこんなに若い人がやっていたとは、改めてびっくりした。ぎょりさん自身も、突然リーダーに指名され、最初は苦労したようだ。社内の協力を得るためにタスクを組むが、最初は盛り上がらない。そのため、そのタスクチームを70人から3人に減らした。その3人の周りに助ける人がついていくるようになった。気を付けていることは、皆が達成感を得られるようにすることで、そのためにタスクを明確にして渡した。

皆さんの話を聞いていると、共通することは、リーダーが熱意を持って進めること、そのフォロワーにも熱意が伝わることだとわかる。日経エレクトロニクスの連載「iモードと呼ばれる前」の番外編で、立役者の一人松永真理氏が「人の覚悟は伝染します」と語っていたのを思い出した (以前「NTTドコモ・ベンチャーズ DAY 2018」で書きました)。

こうなってくると、個人の熱量が大事になる。暑い人たちのお話は「その3」で。

会場は東京ミッドタウン日比谷の6階から。皇居と日比谷公園が借景になっている。

2019年8月5日月曜日

選ばれる機能、それがマーケティング (Bigbeat LIVE その1)

表題の「選ばれる機能、それがマーケティング」は、8月2日に行われたBigbeat LIVE の挨拶に立った濱田社長の言葉から。最初に「BtoBマーケター夏の祭典」というサブタイトルがついていたので、デジタルマーケティングとかリードナーチャリングとかの話かと思っていたが、この言葉でそうではないことがわかる。

「マーケティング」は人によって使われる意味が変わってくる。「狭義のマーケティング」は、広告、プロモーションで、「作ったものをどう売るか」。これに対して「広義のマーケティング」には「売れる仕組みを作る」、そして、「売れるものを作る」まで含まれる。Bigbeatは広告会社ということで、そういう意味では狭義のマーケティングが専門だと思うが、このイベントはそうではないことがわかる。

実際、一日イベントに参加して大いに刺激になったし、勉強になった。あ、「勉強になった」は敗北の言葉だった (小島英揮さん談)。行動が大事。そしてアウトプットが大事。それぞれの登壇者の言葉を拾っていきながら、考えたこと、これまで考えてきたこととの接点をまとめていこうと思う。

濱口社長:「働き方改革」に関しては、(電通の問題があった) 2018年以前から気付いている人が多くいた。「働き方」を変えるには「経営」を変える、「マーケティング」で「経営」を変える。
 -- 働き方改革のためには、長時間労働でなく、生産性をあげなければいけない。日本の会社をみていると、部門でできるコスト削減の取り組みは力を入れているが、コスト削減の積み重ねでは不十分で、会社全体でコストをかけず売り上げを伸ばす必要が出てくる。それは「選ばれる機能」を作ることで、 (広報宣伝部だけの仕事でなく全社で取り組む) 広義の「マーケティング」だ。それをドライブするのは「経営」だ。

濱口社長:「デジタル」と「物語」が重要。
 -- 「物語」は「選ぶ理由」であろう。そしてそこには「共感」が必要になる。製品を買うことでその物語の一部になる。その物語の一員である自分を買っているといっていい、私もこれまで "私達が買うのはそのモノではなく、それを使っている「自分自身」" (「モノを売るのではなく新しい価値を売る」) とか、"クラウドファンディングで購入を決めた人、初期ロットで完成度70%段階で買った人は「わしがオールユアーズ を育てた」と思っているだろう" (「CXの時間軸 (CX DIVE 2019 その1)」) というようなことを書いてきた。

最初のセッション1st Stage のテーマは "真に「顧客の未来」を描く"。顧客の今に価値を提供するだけでなく、顧客の成長に貢献することが重要だというメッセージが見える。このセッションのモデレータはパラレルマーケター小島英揮氏。

小島英揮氏 "Sell To the Community" ではなく "Sell Through the Community"。コミュニティには3つのレイヤーがある。上から、リーダー、フォロワー、ワナビーズ。上位2レイヤーに力を入れる必要がある。コミュニティには3つのファーストが必要だ。1.コンテキスト、2.オフライン、3.アウトプット。
 -- 以前 (2005年) 書いた「インターネットマーケティング」では、フォロワーを多く持つブロガーにレビューしてもらって ... という程度だった。ブロガーとフォロワーの組み合わせはコミュニティといえるかもしれないが、このでのフォロワーは小島氏が定義するレイヤーでは基本的には特に何も貢献しないワナビーといえるだろう。商品の口コミはそこで終わり、"Sell To the Community" に留まっているといえるだろう。

松村大貴氏 (株式会社空)「飽和の時代のマーケティング」(事前インタビュー):
飽和の時代のマーケティングシフトは、拡大よりも価値発見、マスよりもパーソナル、モノよりもストーリー、WhatよりもWhy というシフトである。空は、ダイナミックプライシングサービス Magic Price を提供している。マーケティング 4P のうち Pricing が未開拓だが、Pricing の改善が利益に最も効いてくる。これが空のWhy。
 -- 松村氏の「Why」は、濱口社長の「物語」に繋がっているのではないか (Tweet)。どちらも「選ぶ理由」。

松村氏:Outside-In から Inside-Out への転換。ビジョンは調査では得られない。妄想からスタートするものでないと新しいものは生まれない。
 -- Outside-In はマーケットイン、Inside-Outはプロダクトアウト。以前はプロダクトアウトはダメでちゃんと市場の要求に応えるマーケットインが必要だといわれていたが、その限界が見えてきた。全く新しいマーケットを作るにはプロダクトアウトが必要だ。しかしこれに関することは昔から言われていて、ヘンリー・フォードの格言で「もし私が顧客に彼らの望むものを聞いていたら、彼らはもっと速い馬が欲しいと答えていただろう」というのがあった (「みんなソニーが大好き」)。

牟田口武志氏 (イケウチオーガニック):もとは海外ブランド (B2B) 中心で、自社ブランド (B2C) は1% しかなかった。2003年、問屋の倒産で大きな負債を負い民事再生法で再建することになった。1%の自社ブランドで再生を目指すというのはあり得ない選択だが、お客様の声が後押しになった。
 -- チャレンジだが、下請けを続けるより発展はあるだろう。必要なのは勇気だが、お客様の声が後押ししたといえるだろう。

牟田口氏:これにより、B2CがB2Bを超えた。ここで、B2B事業の再定義。共感してくれる企業を増やす。その人たちを紹介する場としてオウンドメディア「イケウチな人たち」を作った。ライター、カメラマン、編集部もイケウチファンで固めた。レストランSioオーナーがイケウチオーガニックに心酔し、おしぼりに採用、インタビューにも応じてくれた。インタビュー記事を読んで採用レストラン数10倍。
 -- 「コミュニティを通じたマーケティング」というとB2Cを想定するが、そのCから逆にBに影響を与えてB2Bになっている。

松尾佳亮氏 (Sansan):それまでデジタル領域での広告だけだったが、頭打ちになり、2013年からTV CMを始めた。2016年からコミュニティマーケティングを導入している。Sansanをそのプラットフォームとして活用している。
 -- サービス自体が人と人とをつなぐもので、コミュニティを形成している。このコミュニティを活用できる点は、このようなサービス特有なものだろう。以前 "顧客が作る「サービスの魅力」" ということを考えていたのを思い出した。

「広義のマーケティング」の話に戻るが、パネルディスカッションの中で「マーケティングはオーケストレーション。社員が納得していないとお客様に伝わらない」という言葉は響いた。自分に嘘をつきながら「魅力」を伝えても、聴く人からは気づかれてしまうよね。そしてこのことが、午後の2nd Stage のテーマ "組織は「共感」で変わる" につながる。それはまた別記事「その2」で。

パネルディスカッション

2019年7月15日月曜日

AIと倫理

もう2ヶ月前の話になるが、DEEP LEARNING LABのイベント「Build 2019 最新アップデート AI 編 / decode 2019 前夜祭」で、日本マイクロソフトの畠山 大有氏が登壇し、"The ethics of AI - AIの倫理的側面 - " という題で最近のAIの課題に関して話をされた。

機械学習は実データに基づき学習する。実データに偏り=bias があればそれが学習結果に反映される。シカゴ市で、市民がスマートフォンで道路の損傷の報告をできるようにし、そのデータに基づきどこから補修していくかをAIで決める施策をとったら、結果として金持ちの多い場所が修理されるようになった。スマートフォンの保有率が高い地域から多くデータが集まったからと考えられる。マイクロソフトの人工知能チャットボットも、ネットの会話から学んだため人種差別発言をするようになった (ねとらぼ 2016/03/25 Microsoftの人工知能「Tay」が緊急停止 ネットで人種差別や陰謀論を学んでしまったため)

Googleの機械翻訳で、
  He is a nurse.
  She is a doctor.
という文をトルコ語に翻訳させると、
  O bir hemşire.
  O bir doktor.
となる。このトルコ語を英語に再度翻訳すると、
  She is a nurse.
  He is a doctor.
となる。

トルコ語の三人称代名詞に男性女性の差はなく、トルコ語の翻訳はあっている。これを英語にする際に、三人称代名詞が男性か女性かによって選択する必要がある。医師は男性が多く、看護師は女性が多いという実世界の状況が、実世界に存在するテキストにも反映され、"He is a nurse." よりも "She is a nurse." のほうがより確からしいと判断するのだ。

そしてさらにAIの判断が実世界に影響を与える。人種により犯罪の検挙率が異なれば、特定の人種に対する取り締まりを強化することになり、さらに人種の偏りは大きくなっていく。

畠山氏は、この問題は、本質的に解決が難しいと語る。AIはデータのみで判断し、その判断基準が倫理的に正しいかは知らない。そして深層学習においてはその判断基準自体が人間から見えなくなっているのだ。

畠山氏がこの問題の解決は、データ作成の時点から品質管理を行う必要があると語る。そして、データの分析、監視を続ける必要がある。

Googleも当然このことに気がついており、取り組みを進めている。6月25日 INEVITABLE ja night - “インターネットの次にくるもの” 第 9 回 デベロッパーカンファレンスから読み解くテクノロジーの不可避な流れ において、及川卓也氏と小島英揮氏の対談で、現在のカンファレンスでの話題の中心が、技術だけでなく、人工知能の倫理面にあることが示された。Google I/Oでは、"People+AI Guidebook" が発表された。これは人間中心AIの設計指針である。

及川氏は、「Google は過ちをするが、すぐに修正してきた。Google Translate ドクタ/ナースのバイアスを修正。そのバイアスを除くノウハウを提供している。」と語っている。

それをさらに具体的に話したのが、佐藤 一憲氏。 Google は"Machine Learning Fairness"という概念を提唱し、バイアスを避ける取り組みを行なっている。その一つが、Open Images Extended。よりダイバーシティの高いイメージデータを構築し、オープンにする。また、Fairness Indicatorという機能を提供しており、データをある視点でセグメントに分けたとき (例えば性別など)、セグメントごとの精度を示す

先日来日したジェフ・ディーン氏がAIについて語っている記事があった (BUSINESS INSIDER 2019/07/11 Google AIトップが語った「機械学習モデルの公平性」はどう作り出すか)。
結婚式の写真について機械学習させるケースを一例にあげ、「北米からだけでなく、ほかの地域からも広く結婚式のデータをとってこなければならない。そうでないと日本やインドなど、世界にはさまざまなすばらしい結婚式が存在することを見逃してしまうだろう」と指摘。「データが世界中のあらゆるもの、多様性をしっかり反映しているか考えた上で、機械に学習させなければならない」と語った。
結婚式の例は、Open Images Extendedの具体例だろう。

このGoogleの取り組みは、畠山氏が語った「データ作成の時点から品質管理を行う」ということ、「データの分析、監視」と合致していると言える。

データのバイアスは知らない間に入っている。そこに気づき、避けるようにするためには、技術者もしっかりした知識と、何が避けなければいけないバイアスなのかの哲学が必要だと認識しておく必要がある。

2019年4月25日木曜日

紀里谷さん大暴れ (CX DIVE 2019 その3)

4月17日 CX DIVE 2019 のレポートその3には「五感を刺激する演出から学ぶ」のセッションをとりあげる。

登壇者は次の4名。ファシリテーターは長谷川リョーさん。

  • 草彅 洋平(株式会社東京ピストル代表取締役/編集者)
  • 永島 健志(81 オーナーシェフ)
  • 紀里谷 和明(映画監督・写真家)
  • 長谷川 リョー(『SENSORS』 編集長)

長谷川さんはプレイベント「CX DIVEの歩き方」で事前にこの日のセッションの進め方について語っていた。曰く「登壇者はバラバラ。共通していることは既成概念にとらわれないこと。聞きたいことはカオスの中でどう折り合いをつけてクリエーションするか」ということだった。

まあ実際カオスなセッションになった。何と言っても紀里谷さんだろう。最初は「五感」に関して、「人間がロボットみたいになっている。知識と情報で動いている。先日有名なレストランに行ったらすごくまずい。でも他の人たちはまずい食事をしてにこにこしている。誰も自分で判断しない」と強烈な一発。

それぞれのディスカッションもそこそこに早めに会場からの質疑応答になった。私も聞きたかったことだが、「五感を刺激する演出」に関しての質問があった。それに対して、特に「学ぶ」について、「テーマ自体がいい加減。学んで何をしようとしているの?お金儲け?もてたい?」とちゃぶ台返し。なお、自分に関しては「昔はそういう気はあったが、地球はあと100年しか持たない。そこでそういう気がなくなった。昔は騙されていた」とか言って微笑ましい。

この紀里谷節に草彅さんが感化されたのも面白かった。「CX DIVEの歩き方」で、草彅さんの話が出ていて、「草彅さんの特徴はサウナと宗教。いくつもの新興宗教にはまっている。青山にゴッドバーというのを開いた」というのを聞いていたが、この日も皆が宗教方面に話をもっていかないようにしている中、紀里谷さんを教祖扱いし出していた。サウナに関しても「本は売れなくなっている。本が出すぎていて、届かない。今はリアルイベントが強い。そこでサウナですよ」と自分のフィールドにつなげる。

長谷川さんの聞きたかったこととして「カオスの中でどう折り合いをつけてクリエーションするか」ということがあったが、このセッション自体がカオスであり、「五感を刺激する演出」だったのではないかと思った。

2019年4月23日火曜日

スポーツとCX (CX DIVE 2019 その2)

4月17日 CX DIVE 2019 のレポートその2。「スポーツとCXのこれから」を取り上げる。

実は、3月に「スポーツの可能性と新しい観戦体験 athlte port-D ファイナルイベント」 というイベントがあって、  為末大氏、フェンシングの太田雄貴氏、ハンドボール協会の湧永寛仁氏、ダンス界からカリスマカンタロー氏ら多彩な登壇者の対談を聞いてきた。ここではフェンシングの新しい見せ方、ダンス業界がバトル形式でファンを売やしてきたことなど、新しい取り組みがいろいろ聞けて刺激になった。

今回のセッションもそのイベントと関連性が高く、期待して臨んだ。

登壇者は次の皆さん。

  • 葦原 一正 (B.LEAGUE 事務局長)
  • 杉本 渉 (Jリーグデジタル コミュニケーション戦略部 部長)
  • 池田 憲士郎 (Vリーグ ヴォレアス北海道 代表取締役)
池田氏はもともとバレーボールの選手であったが、球団経営は門外漢。地元旭川が元気がないのでバレーボールチームを立ち上げた。VリーグはJリーグや新興のBリーグと比べメディア露出が少なく、地味な印象を受ける。その中でビジュアルに力を入れており圧倒的な存在感を出している。相場を知らないためチケットも高額に設定していて、言わば新参者の破壊者だ。「嫌われてないですか」という質問に「嫌われてます」と答えていた。

杉本氏はもともとYahoo!でスポーツナビをやっていた人で、Jリーグに来てオウンドメシアおよびアプリを開発運営している。

葦原氏のBリーグは、2015年に立ち上がったばかり。成長率が高い。今のところマーケティングに関しては「普通」という。ただしガバナンスには力を入れているという。

さてスポーツとCXの関係だが、「観戦が体験」ということで一致していた。そもそもスポーツは感動するものちうことで、その場に来てくれればわかる、ということである。「どうやれば観に来てくれるか」が課題で、現在は人に誘われてくるということが多いため、抽選でペアチケットをプレゼントすることなどが取り組みとしてある。

見てもらえばわかる、というのは先日のイベントのフェンシングなどと違うところだろう。サッカーもバレーボールも、皆学校で試合をしたことがあり、ルールもすごいプレーもわかる。一方、フェンシングではそれがわからないため、選手の動きの意味をビジュアライゼーションで理解できるようにしている。


また、ルールがわかりやすい新しい種目を開発していて、新しい正式種目に加えたいということであった。

ハンドボールでは、選手を自動追尾するカメラを導入して全部撮っている。好きな選手だけを注目してみたり、俯瞰してみることができるとのこと。

ダンスは、コンテストから1対1バトルで人気が広がり、さらに今ではTikTokですそ野が広がっている。

今回出たメジャースポーツでは、このような取り組みは必要がないのかもしれない。しかし、2部3部リーグでも地元に定着している海外と比べると、まだ裾野を広げる余地があると思う。キーになるのは観戦以外の体験ではないか。選手一人一人の物語にフォーカスをあてたり、ダンスのように皆が参加したくなる取り組みに開拓の余地があると思う。


2019年4月21日日曜日

CXの時間軸 (CX DIVE 2019 その1)

4月17日、CX DIVE 2019 に参加した。オープニングセッション、キーノートセッション、クロージングセッション以外は2つのパラレルセッションで、以下のセッションに参加した。
  • 「テクノロジーにより進化するコミュニケーションとCXの未来」
  • 「当たり前を疑い、感動する体験を生み出す」
  • 「五感を刺激する演出から学ぶ」→ その3
  • 「スポーツとCXのこれから」→ その2
ここでは、「当たり前を疑い、感動する体験を生み出す」をまとめる。

登壇者は次の皆さん。米田氏のファシリテーションで話が進んだ。
  • 米津 雄介(THE株式会社 代表取締役/プロダクトマネージャー)
  • 米田 智彦(FINDERS創刊編集長/文筆家)
  • 木村 まさし(株式会社オールユアーズ 代表取締役)
  • 宮野 浩史(株式会社クリスプ 代表取締役/株式会社カチリ 代表取締役)
米津氏のTHE株式会社は、THEおわん、THE醤油さしなど、他のメーカーと協力してそのジャンルのど真ん中を目指して作る。ど真ん中というのは、今ある平均点ではなく、「本当はこうだったらいいな」ということ。例えばTHE醤油さしは、液だれしない醤油さし。また、東京と京都に直営店を持っている。自社製品だけでなく、もともとTHEといえる製品があるジャンルはそれを出す。

木村氏のオールユアーズは、クラウドファンディングで洋服を作り、売る会社。この会社のことは、Abeja SIX 2019 で、家入一真氏の話の中で事例として出てきた。木村氏は、お客様でなく共犯者と呼んでいる。これは分かりにくいかもしれないが、クラウドファンディングでお金を出すということは、その製品を世に出すことの決定権を握っているということだ。

宮野氏のクリスプは、カスタマイズできるサラダの専門店。アプリで注文できる。そしてそのアプリのプラットフォームを他のお店にも提供している。それによりお店が自分の注文サイトができる。

米田氏は、「共通していることは、プロダクトアウトであるということ」とまとめた。マーケティングリサーチでは出てこない、自分が本当に良いものを提供する。マーケティングリサーチでは、顧客が想像するものの平均値しか出てこないだろう。これはTHEが脱却しようとしているものだ。木村氏は「おしゃれは我慢」という考え方を変えたいという思いで製品を開発している。流行に流されない、ずっと着れるものを提案している。宮野氏は、季節メニューを出さず、常に同じメニューを出している。季節メニューがないと怖いと思っているだけではないか。お客様自身がカスタマイズできることは大きな強み。

このセッションで一番重要だと思ったのは、米田氏の「CXでは時間の軸が変わっているのではないか」ということであった。「CXとUX」でも書いたが、「(UX/CXは) 製品の使用前、使用中、使用後における体験全てを含む」ということで、使用中だけの問題ではない。

米津氏は長く使えるものの価値を重要視しているようで、「うれしいのは修理依頼」、「お客様にも長く使うか本当に必要か考えてもらう」と語った。これは購入前、購入時の体験だ。宮野氏は、「今は誰でもおいしいものを作ることができる。おいしいことは競争優位性ではない。お店の作りも同様だ。競争優位性は人。注文のやり取りはコンピューターでもできるので、お客様にかける一声が競争優位性を作る」と語った。これも購入時 (使用前) の体験だ。

木村氏は「うちは製品の体験がすべて。着て気持ちいい」と語ったが、これは違うのではないか。クラウドファンディングで購入を決めた人、初期ロットで完成度70%段階で買った人は「わしがオールユアーズ を育てた」と思っているだろうし、それもCXじゃないかと思う。このことをツイートしたら、木村氏から同意のリプライをいただいた。うれしい。

これは皆さんに共通することだが、コアなファンがついている。その人たちは直接使っている時だけでなくて、きっとそれ以外の時でも、会話やツイッターなどで他人に語りたくなっているし、実際に実行していると思う。そのこと自身が、製品やサービスへの愛を強めているだろう。そのためには愛される製品、サービスに注力する必要があるだろう。そしてそれを支えているのが、元に戻るが、作り手の思いが詰まったプロダクトアウトだ。

後のほうで「お客の期待を超える」という話題があった。これに関しては皆さん自信を持っているようで、特に米津氏の「たかが醤油さしを死ぬほど考えたりする人はいない。お客様より知っている。商品を作るときにめちゃくちゃ歴史を調べる」という発言に共感した。

CXを考える上で最も有益なセッションだったと思う。

2019年4月16日火曜日

CXとUX

4月17日、CXに関する大規模なイベントCX DIVE 2019 が開催される。このイベントは3月に行われたGoogle の "inevitable ja night" に登壇されたプレイドの牧野氏の話で知った。それに先立つ4月15日「CX DIVEの歩き方」というプレイベントがあり、そちらにも参加した。

モデレーターはモリジュンヤ氏 (inquire代表 / 「XD (クロスディー)」編集パートナー)、登壇者は、長谷川 リョー氏 (『SENSORS』 編集長)、米田 智彦氏 (FINDERS創刊編集長 / 文筆家)。皆さん編集の分野では有名な方のようです (すみません、技術分野以外疎くて)。

話題に上がったのは、
  • 最近顧客として感動したこと
  • 顧客が求めるものの変化
  • CX DIVE 担当セッションについて
    • 長谷川:「五感を刺激する演出から学ぶ」
    • 米田:「当たり前を疑い、感動する体験を生み出す」
  • 担当外の期待セッション
  • 最後に、意気込み
と多岐にわたる。最初のテーマでは、いろいろ知らないサービスが紹介されていて興味深かった。一方、担当セッションのところ、それ以外のセッションのテーマのところは、それぞれ登壇者のキャラクターにフォーカスがあたり、本番に期待が沸いてくる。

さて、"CX" という言葉は、”Customer Experience" の略である。一方、"UX" (User Experience) という言葉もある。"UX" については、「UIデザインとUXデザイン」で、
  • 製品の使用前、使用中、使用後における体験全てを含む
  • UXの良否はユーザーの内心の評価基準で決まる (ユーザー以外に物差しはない)
  • サービス以外の要因 (宣伝、評判、本人の知識、使用環境など) に影響される
ということを学んだ。お店のディスプレイに惹かれて買った。評判もいいし悪い気はしない。同じものを買った人と話が弾む。故障したけどすぐに修理してくれて不愉快な思いをしなかった。新しい製品に変えたけど愛着があってなかなか捨てられない。すべて UX の構成要素だ。

ただ、どうしても "UI" という言葉に引きずられる傾向があると思われ、そのために "CX" という名前を新たに定義したのではないかと思っていた。これなら上記のような要素を含めて違和感はない。

しかし、この日のお話を聞いていると、どうも "UX" と "CX" は違うという点で一致しているようだ。そしてこの場で言われている "CX" は、私が理解していた "UX" の定義と同じように思われる。そこで質問の時間に、"UX" と "CX "の違いについて質問した。

モリ氏に頂いた答によれば、ここでの "CX" は私が理解していた "UX" と同じもの。"UX" のほうがもう少し限定された意味のようだ。モリ氏によれば、"UX" の使い方には人によって幅があり、UIによって得られる体験から、ここでいう "CX" まで広がっているという。

今後はその点を注意して、特に "UX" という言葉を使うのはできるだけ避けて、"CX" という言葉を使っていきたい。