2019年8月10日土曜日

熱意を伝える (Bigbeat LIVE その2)

Bigbeat LIVE 2019 午後の2nd Stage のテーマは ”組織は「共感」で変わる"。登壇者それぞれ、組織/コミュニティ、変革に違いがあって、バラエティに富んでいる。

ホストの小沢匠氏はアドビでビジネスモデルを売り切りからサブスクリプションに変えていくために営業全体の意識を変えていかなければならなかった。エンワールドジャパンの片山旭氏は、「カスタマーサクセス」で転職業界の慣習を変えるチャレンジを行った。Freee 田中圭氏は、共感してくれるユーザーのユーザー会をどう立ち上げたかのお話。Abejaのぎょりさん (片淵恭子さん) は、日本一の自社イベントを立ち上げる際にどう周りを巻き込んでいったのか。それぞれ興味深い。

アドビ小沢氏が、売り切り型からサブスクリプション型へのビジネスモデルの変革プロジェクトにチェンジマネジメントリーダーとして関わった話は、日経XTECH の連載 "「チェンジモンスター」をやっつけろ!アドビが自らを変革した100日間" で読むことができる。その連載を全部話すことはできないので、重要なメッセージのみが伝えられた。特に
 「一人では何もできない。共感が人を動かす」と、「チェンジモンスターは、人ではなく、心理的な阻害要因」ということが心に残った。後者に関しては私も「モンスターペアレント」みたいに、厄介者の個人ということを想定していたので、それが誰の心の中にもある阻害要因という見方の変化はなるほどと気づかされるものがある。「阻害要因」ということは、悪意がある人がいるわけではなく、それがなくなれば前進できるということで、問題は対処可能に見えてくる。一方、「誰でも」というところは、その阻害要因は人それぞれであって、一つの解決策でうまくいくものでもないことがわかる。

エンワールドジャパン 片山氏が「人材紹介業の慣習を変える」といっている「慣習」は、人材紹介のビジネスモデルに基づくものである。転職の成功でその人の年収に応じた紹介料を貰う。転職自体がゴールになっているので、それまでケアは厚いが、その後は関係が切れてしまう。しかし、転職者にとってのゴールは「その転職で幸せになる」おとであり、それを「カスタマーサクセス」で定義し、転職後もフォローするように変えた。

片山氏が行った人脈作りが面白い。鬱陶しいくらい熱い。社内ネットワークづくりのためにランチのお誘いをする。毎月15回をKPIとして設定した。セルフブランディングとして毎日のルーチンを設定し、「あの人は何をやっているんだろう」と思わせる。イベントには積極参加し、「イベントの人 = 片山」という評判を得る。アウトプットを続ける。目を付けた人を「勝手にメンター」にしてしまう ... これらがカスタマーチーム立ち上げの基盤になっているとおもわれる。熱さが共感を生むのだろう。

Freee田中圭氏は、ユーザー会を「自走コミュニティ」と呼んでいる。Freee側が手をかけなくとも、ユーザー自ら勉強会「マジカチ」(= マジで価値ある勉強会) を行い、お互いに教えあう。これは会計業界のフェスみたいなものに成長している。Freee側担当者のリソースに依存せずスケールするし、ユーザー視点の良質なコンテンツを量産できる (ハッシュタグ#freee塾 で検索することができる)。
https://six.abejainc.com/
このようなコミュニティを作るために「共感」を生み出すことが重要になる。ユーザー会だけでなく社内でも共感を得る必要があるということだ。そのためには、楽しそうに仕事をすること、それを社内で見てもらうこと、ユーザー会のリーダーに社内向け講演を行ってもらうなど行った。社外向けでは、まずリーダー候補者を探し、選ぶことが重要になる。ビジョンと目標を共有できる人でないといけない。リーダー向けには特別なノベルティを用意し、全国リーダー会などでモチベーションをあげる。

コミュニティマネージャーの仕事は、「熱量をもってビジョンを伝える」ということが印象的だった。

Abejaのぎょりさんは、Abeja SIX という大規模自社イベントのリーダー。それまで名前も知らなかった会社がこんなに派手なイベントをやるんだと感心していたが、それがこんなに若い人がやっていたとは、改めてびっくりした。ぎょりさん自身も、突然リーダーに指名され、最初は苦労したようだ。社内の協力を得るためにタスクを組むが、最初は盛り上がらない。そのため、そのタスクチームを70人から3人に減らした。その3人の周りに助ける人がついていくるようになった。気を付けていることは、皆が達成感を得られるようにすることで、そのためにタスクを明確にして渡した。

皆さんの話を聞いていると、共通することは、リーダーが熱意を持って進めること、そのフォロワーにも熱意が伝わることだとわかる。日経エレクトロニクスの連載「iモードと呼ばれる前」の番外編で、立役者の一人松永真理氏が「人の覚悟は伝染します」と語っていたのを思い出した (以前「NTTドコモ・ベンチャーズ DAY 2018」で書きました)。

こうなってくると、個人の熱量が大事になる。暑い人たちのお話は「その3」で。

会場は東京ミッドタウン日比谷の6階から。皇居と日比谷公園が借景になっている。

2019年8月5日月曜日

選ばれる機能、それがマーケティング (Bigbeat LIVE その1)

表題の「選ばれる機能、それがマーケティング」は、8月2日に行われたBigbeat LIVE の挨拶に立った濱田社長の言葉から。最初に「BtoBマーケター夏の祭典」というサブタイトルがついていたので、デジタルマーケティングとかリードナーチャリングとかの話かと思っていたが、この言葉でそうではないことがわかる。

「マーケティング」は人によって使われる意味が変わってくる。「狭義のマーケティング」は、広告、プロモーションで、「作ったものをどう売るか」。これに対して「広義のマーケティング」には「売れる仕組みを作る」、そして、「売れるものを作る」まで含まれる。Bigbeatは広告会社ということで、そういう意味では狭義のマーケティングが専門だと思うが、このイベントはそうではないことがわかる。

実際、一日イベントに参加して大いに刺激になったし、勉強になった。あ、「勉強になった」は敗北の言葉だった (小島英揮さん談)。行動が大事。そしてアウトプットが大事。それぞれの登壇者の言葉を拾っていきながら、考えたこと、これまで考えてきたこととの接点をまとめていこうと思う。

濱口社長:「働き方改革」に関しては、(電通の問題があった) 2018年以前から気付いている人が多くいた。「働き方」を変えるには「経営」を変える、「マーケティング」で「経営」を変える。
 -- 働き方改革のためには、長時間労働でなく、生産性をあげなければいけない。日本の会社をみていると、部門でできるコスト削減の取り組みは力を入れているが、コスト削減の積み重ねでは不十分で、会社全体でコストをかけず売り上げを伸ばす必要が出てくる。それは「選ばれる機能」を作ることで、 (広報宣伝部だけの仕事でなく全社で取り組む) 広義の「マーケティング」だ。それをドライブするのは「経営」だ。

濱口社長:「デジタル」と「物語」が重要。
 -- 「物語」は「選ぶ理由」であろう。そしてそこには「共感」が必要になる。製品を買うことでその物語の一部になる。その物語の一員である自分を買っているといっていい、私もこれまで "私達が買うのはそのモノではなく、それを使っている「自分自身」" (「モノを売るのではなく新しい価値を売る」) とか、"クラウドファンディングで購入を決めた人、初期ロットで完成度70%段階で買った人は「わしがオールユアーズ を育てた」と思っているだろう" (「CXの時間軸 (CX DIVE 2019 その1)」) というようなことを書いてきた。

最初のセッション1st Stage のテーマは "真に「顧客の未来」を描く"。顧客の今に価値を提供するだけでなく、顧客の成長に貢献することが重要だというメッセージが見える。このセッションのモデレータはパラレルマーケター小島英揮氏。

小島英揮氏 "Sell To the Community" ではなく "Sell Through the Community"。コミュニティには3つのレイヤーがある。上から、リーダー、フォロワー、ワナビーズ。上位2レイヤーに力を入れる必要がある。コミュニティには3つのファーストが必要だ。1.コンテキスト、2.オフライン、3.アウトプット。
 -- 以前 (2005年) 書いた「インターネットマーケティング」では、フォロワーを多く持つブロガーにレビューしてもらって ... という程度だった。ブロガーとフォロワーの組み合わせはコミュニティといえるかもしれないが、このでのフォロワーは小島氏が定義するレイヤーでは基本的には特に何も貢献しないワナビーといえるだろう。商品の口コミはそこで終わり、"Sell To the Community" に留まっているといえるだろう。

松村大貴氏 (株式会社空)「飽和の時代のマーケティング」(事前インタビュー):
飽和の時代のマーケティングシフトは、拡大よりも価値発見、マスよりもパーソナル、モノよりもストーリー、WhatよりもWhy というシフトである。空は、ダイナミックプライシングサービス Magic Price を提供している。マーケティング 4P のうち Pricing が未開拓だが、Pricing の改善が利益に最も効いてくる。これが空のWhy。
 -- 松村氏の「Why」は、濱口社長の「物語」に繋がっているのではないか (Tweet)。どちらも「選ぶ理由」。

松村氏:Outside-In から Inside-Out への転換。ビジョンは調査では得られない。妄想からスタートするものでないと新しいものは生まれない。
 -- Outside-In はマーケットイン、Inside-Outはプロダクトアウト。以前はプロダクトアウトはダメでちゃんと市場の要求に応えるマーケットインが必要だといわれていたが、その限界が見えてきた。全く新しいマーケットを作るにはプロダクトアウトが必要だ。しかしこれに関することは昔から言われていて、ヘンリー・フォードの格言で「もし私が顧客に彼らの望むものを聞いていたら、彼らはもっと速い馬が欲しいと答えていただろう」というのがあった (「みんなソニーが大好き」)。

牟田口武志氏 (イケウチオーガニック):もとは海外ブランド (B2B) 中心で、自社ブランド (B2C) は1% しかなかった。2003年、問屋の倒産で大きな負債を負い民事再生法で再建することになった。1%の自社ブランドで再生を目指すというのはあり得ない選択だが、お客様の声が後押しになった。
 -- チャレンジだが、下請けを続けるより発展はあるだろう。必要なのは勇気だが、お客様の声が後押ししたといえるだろう。

牟田口氏:これにより、B2CがB2Bを超えた。ここで、B2B事業の再定義。共感してくれる企業を増やす。その人たちを紹介する場としてオウンドメディア「イケウチな人たち」を作った。ライター、カメラマン、編集部もイケウチファンで固めた。レストランSioオーナーがイケウチオーガニックに心酔し、おしぼりに採用、インタビューにも応じてくれた。インタビュー記事を読んで採用レストラン数10倍。
 -- 「コミュニティを通じたマーケティング」というとB2Cを想定するが、そのCから逆にBに影響を与えてB2Bになっている。

松尾佳亮氏 (Sansan):それまでデジタル領域での広告だけだったが、頭打ちになり、2013年からTV CMを始めた。2016年からコミュニティマーケティングを導入している。Sansanをそのプラットフォームとして活用している。
 -- サービス自体が人と人とをつなぐもので、コミュニティを形成している。このコミュニティを活用できる点は、このようなサービス特有なものだろう。以前 "顧客が作る「サービスの魅力」" ということを考えていたのを思い出した。

「広義のマーケティング」の話に戻るが、パネルディスカッションの中で「マーケティングはオーケストレーション。社員が納得していないとお客様に伝わらない」という言葉は響いた。自分に嘘をつきながら「魅力」を伝えても、聴く人からは気づかれてしまうよね。そしてこのことが、午後の2nd Stage のテーマ "組織は「共感」で変わる" につながる。それはまた別記事「その2」で。

パネルディスカッション