2019年1月29日火曜日

AI開発に関わる法律の知識

先日、以下のセミナーを受講してきた。

AI開発を円滑に進めるための契約・法務・知財  (2019/1/25)

AIの開発、特に自社開発ではなくベンダーを使った開発には、他のシステム開発と異なる問題がある。一つはAI開発でできる中間成果物の帰属で、納入する最終製品以外に、元データ、学習データ、学習済みモデルなどは誰にその知的財産権があるのか、誰が使えるのかという問題である。もう一つは責任の所在の問題で、期待した性能が出なかった場合に発生する損害をどうするか、AIが誤動作したした時に発生する責任を誰が持つかということがある。

講師は、経産省の「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」をまとめたメンバーの一人柿沼弁護士。難しい法律の問題を整理した形で提示していただき、よく理解できた。

例えば、あるものの法律的位置付けは、法律の規定があるか否か、契約があるか否かのマトリクスできまる。

  契約なし 契約あり
法律の規定あり 法律の規定に従う 契約優先
法律の規定なし ルールなし 契約通り

そしてそれぞれの対象に対して、その取得方法の違いにより、適用される法律は何かを示し、その結果権利がどこに所属するかが解説された。

知的財産権を規定する法律として

  • 特許
  • 著作権
  • 不正競争防止法に基づく制約

をあげ、各対象  (生データ、学習用データセット、プログラム、学習済みモデル、パラメータ、ノウハウ) にどれが適用できるのかが示された。

特に著作権では、今年の1月1日から施行された著作権法30条の4  (文化庁 著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)について) に関しては、追えていなかったので大いに参考になった。
  • 思想又は感情の享受を目的としない利用の場合に、
    • 技術の開発等のための試験の用に供する場合
    • 情報解析の用に供する場合 → AI開発
    • 人の知覚による認識を伴うことなく電子計算機による情報処理の過程における利用等に供する場合
  • その必要と認められる限度において,利用することができる → 利用の幅が広がった
商用利用も含まれ、これは世界でも類をみない緩さで、これで日本がAI開発に最も有利な国になったという (STORIA法律事務所ブログ 2018/09/02 「進化する機械学習パラダイス ~改正著作権法が日本のAI開発をさらに加速する~」)。

整理された説明は、権利だけでなく、個人情報の提供に関してもどういう条件で第三者であるベンダーに渡せるのかについても同様だった。

例えば、個人情報を含むデータを用いて学習するシステムの場合、AIベンダーが開発終了後に事業者に返す場合は、委託の条件を満たしていれば第三者に横流ししていることにならない。一方、AIベンダーがそのデータを用いて自分で事業を行う場合は、第三者にあたり、個人情報を提供した人の同意を得る必要がある、など。

それらの問題の解決は、開発の契約において、契約において明確にする必要があるということである。開発における責任の所在の問題も同様で、アセスメントやPoCなど開発の段階に応じて契約を分け、契約の種類としては「準委任契約」という方法で責任の範囲を限定する方法が示された。

ここでは一部のみ自分が理解した範囲でまとめたが、発表のスライド全体が下記にあるので参考にされたい。
SlideShare AI開発を円滑に進めるための契約・法務・知財

2019年1月14日月曜日

VR元年から3年

「VR元年」という言葉があった。検索してみると、2016年がそう言われていたようだ。
2016年はなぜ「VR元年」と呼ばれているのか? - VR Journal


Oculus Riftが出たのが2016年。その時は10万円だが今は約5万円 (Amazon.com)。まだまだ高く感じる。しかし2018年に出たOculus Go (Amazon.com でほぼ3万円) とDaydream View (Amazon.com で6,000円ちょっとだが別にスマートフォンが必要) が状況を変えるとこの記事では言っている。

でもやはり一般には話題になっていないように感じる。ポケモンGoのようなキラーアプリがない。

昨年末あたりからいくつかVRを体験してきて、VRは何に使うのが適切なのか考えさせられた。
EDGEof xR & xR International Gathering × La French Techの"xR"はeXtended Realityで、AR (Augmented Reality), VR (Virtual Reality) を包含する概念。このイベントはFrench Techとあるように在日フランス大使館が主催者の一翼を担っており、フランスのスタートアップがピッチセッションとデモを行った。

このうちSkyreal.incとVirtual Room.incのデモを体験した。Skyrealはロケットの部品を移動させたり、そこで新しい部品を空中に描いてそれを取り付けたりするもので、共同設計やトレーニングの支援になるという。Virtual Roomは仮想博物館で、博物館の内部が再現されている。ゲームセンター用の脱出ゲームも作っている。Skyreal.incはビジネス向け、Virtual Room.incはエンタテインメント向けということになる。他にビジネス向けとしてはVR会議 teemewのManzalab.incと、VR による外科手術トレーニングのVirtulisurg.incがある。

EDGEof xR & xR International Gathering × La French Tech では、事前のプログラムには乗っていなかったが、Enhanceの水口哲也氏 (というよりも「元セガの水口哲也氏」と言った方がわかりやすいか) のプレゼンがあった。これまでリリースしてきた、xR コンテンツ (2001 Rez、2011 Child of Eden @ TED Tokyo、2016 Rez infinite、2018 Tetris Effect、Ventなど) の振り返り。


さらに水口氏の話は、共感覚、カンジンスキー、バウハウスに発展する。ここらあたりはちょっと追いついて行けなくなっていたが、最後に語った「これまでは、現実世界を切り取ってきた。これからは現実世界との融合。21世紀は体験の時代。感動、心の豊かさ、多幸感の時代」という言葉はそうなのかと受け入れられた。

そういう意味で、水口氏が関わってきたエンタテインメント、アートへの応用は、彼にとっては自然な流れなんだと思う。最初に出した疑問「VRは何に使うのが適切なのか」の答えはここなのだろうか。

NTTインターコミュニケーションセンターへは《ZONE EATER》を体験しに行ったのだが、そこで別のVR作品《The Other in You》に出会った。《ZONE EATER》はある部屋にいる音楽を奏でたりスポーツをしていたりするキャラクターに憑依してその人のアクティビティを体験できる作品。一方の《The Other in You》は逆に表情のないキャラクターに憑依されるような作品だった。「体験」ではあったが、「感動、心の豊かさ、多幸感」は感じられなかったな。

もちろんアートなので実験的な側面が大きい。この実験の中からキラーアプリが出てくるのかもしれない。チームラボの一連の作品は、VRとはちょっと違うかもしれないが、もっとも近い位置にあるのではないか。

そうそう、一番大きな障壁はゴーグルだと思う。これ家でつける? 会社でつけて会議やる? ARはスマートフォンをかざしてという使い方があるが、VRもつけて違和感のないデバイスが必要だと思う。デバイスがいらないチームラボの方向性がその意味でも受け入れやすいと思われる。

結論がアートの方に進んでしまったので、本館の方で書いた方が良い題材だったかもしれませんね。

膠着語について